いなほの本棚

ASD女子大生の読書記録

お母さんができる支援とは?【大人の発達障害】

私は大学1年生の秋、18歳のときに自閉スペクトラム症と診断されました。そうじゃないかそうじゃないかと私も家族も感じていた中での診断だったので、ホッと安心したことを鮮明に覚えています。

とはいえ診断を受けたからといって、障害が治るわけではありません発達障害は、本人とその家族が一生付き合っていかなければならないものです。

本書は自閉スペクトラム症を抱える本人もそうですが、それ以上にそれを支えるお母さん、あなたに読んでほしいです

実際に自閉スペクトラム症の私が読んでみて、納得すると同時に「これはお母さんにも読んでほしい」と感じたからです。

成人したのになかなかお母さんから離れられない、自閉スペクトラム症のお子さんの心のうちがわかるでしょう。

〈目次〉

書籍情報

  • 題名:心のお医者さんに聞いてみよう この先どうすればいいの? 18歳からの発達障害 「自閉スペクトラム症」への正しい理解と接し方
  • 著者:宮尾益知
  • 出版:大和出版
  • 発行:2018年11月30日

自閉スペクトラム症

自閉スペクトラム症とは、発達障害のうち自閉的傾向をもつ人たちにつけられる診断名です。アスペルガー症候群自閉症が含まれます。

自閉スペクトラム症の療育は、子どもと大人で大きく違います。本書は大人の自閉スペクトラム症が対象です。

母親依存

自閉スペクトラム症を抱える人はコミュニケーションに障害を抱えており、人間関係の構築でつまづくことが多いです。

自閉スペクトラム症の人たちの多くは、成人後もお母さんからなかなか離れられません。親しい友人を作ることができず、他に居場所がないからです。

私は今年で20歳になりますが、中学生の妹よりもお母さんにべったりです。私は大学生ですが、友人はひとりもいません。大学に行っても誰とも話さずに帰ってきます。

自閉スペクトラム症は他人への興味関心が薄くひとりを好む傾向にありますが、だからといって孤独を感じないわけではありません。私たちだってふとした瞬間に親しい人がいない寂しさを感じるんです。

でもお母さんなら無条件で愛してくれます。家を空けることが多いお父さんとはあまり仲良くないので、結果的に帰宅するとお母さんにべったりしてしまいます。

お母さんには「もう大人なんだから」ではなく、いつも優しく受け入れてほしいですね。そうすると安心して、明日からの社会生活もがんばれるんです。

感覚過敏・鈍麻

自閉スペクトラム症の人は感覚の過敏さを持っていることが多いです。そのため普通の人には平気な環境でも、自閉スペクトラム症の人にとっては地獄へと化します

例えば私は電車が非常に苦痛です。男の人の汗のにおい、女の人の化粧品のにおい、鼻が詰まっている人の息づかい、ガムをクチャクチャと噛む音、明るすぎる車内の照明。すべてが私には刺激が強すぎるのです。

そのため家に帰ると、何もしゃべれなくなりぐったりしてしまいます。

一方で感覚の鈍さを持ち合わせている人もいます。ちなみに私は感覚過敏も感覚鈍麻もあります。

感覚鈍麻で何が起こるかというと、暑いのに長袖長ズボンでいたり、エアコンをつけないで熱中症になったり、熱さがわからずによく舌をやけどしてしまいます。

感覚過敏や鈍麻は疲れているときに特に顕著に出ます。なのでお母さんには、家ではなるべく余計な刺激を減らしてリラックスできるようにしてほしいですね。

こだわり

お母さんを悩ませているのは、なによりもこれだったりするのではないでしょうか。何でそんなことにこだわるの、ということに異常なまでのこだわりを見せ、家族が振りまわされてしまう。

でも自閉スペクトラム症の人にとっては、こだわりは「心の命綱」なんです。

自閉スペクトラム症の人は、未来に何が起こるかを想像する力が弱いです。何が起こるかわからなくて、いつもいつも不安でいっぱいです。

だから「こだわり」をつくります。「いつも同じ」ことをつくって、安心しようとするんです。

ある程度の小さなこだわりは守ってあげてもよいでしょう。ですが家族が振りまわされて疲弊してしまったり、それが社会生活に支障をきたすとなると問題です。

その場合は専門家に相談して、少しずつこだわりを薄めていく必要が出てきます。

フリーズ、かんしゃく

お母さんがなかなか他の人に打ち明けられない悩み。それがフリーズやかんしゃくなのでは?

自閉スペクトラム症の人は、予想外の出来事に対してフリーズ(その場で固まる)したり、かんしゃくを起こしてわめいたりしてしまいます。

これは脳が情報を処理しきれなくて起こっているのですが、家ならともかく外でなってしまうと周りの目も気になりますよね

じゃあどうすればいいのか。それは「家庭を安心できる場所にする」ことに尽きます。

家庭環境の改善

自閉スペクトラム症の人は、外ではずっと緊張状態です。

うるさくてくさくてまぶしくて、人間関係につまづいて。何が起こるかわからないし、ひとりぼっちで孤独で不安。そうして疲れ果てて家に帰ってきます

なのに家に帰ってきたらこだわりを怒られる。きょうだいにバカにされる。お父さんとお母さんがケンカしている。テレビが大音量で流れている。これでは安心できません。

家庭が安心できないとなると、自閉スペクトラム症の人の居場所がなくなってしまいます。心のゆとりがなくなって感覚過敏や鈍麻、こだわりが強くなり、フリーズやかんしゃくの回数が増えます。

ですから家庭では自閉スペクトラム症の本人を十分理解し、ある程度本人に合わせて生活してあげてほしいです。

障害になりたくてなっているわけではありません。むしろ私たちは障害をもって生まれてお父さんお母さん、きょうだいに申し訳ないと感じながら生活しているし、障害がなければどんなによかったことかと思っています。

だからこそ家庭環境を整えて、本人が「ここにいれば安心できる」「私はここにいてもいいんだ」と思えるようにしてあげてください。お願いです。

そのための努力を家族だけでする必要はありません

法律が変わって、発達障害の人たちを支えることが社会の責務になりました。積極的に発達障害の支援機関を頼ってください。本書の最後で支援先が紹介されています。

障害者手帳

最後に中にはもう申請しているお子さんもいらっしゃるかと思いますが、迷っているお母さんとお子さんに、発達障害障害者手帳を申請するかどうかのお助け情報です。

私は現在障害者手帳を取得していませんが、就職活動が始まる頃に合わせて申請予定です。というのも総合的に考えて、障害者手帳を持っているメリットの方が大きいからです。

まず障害者手帳があると、障害者枠で就職することができます。ストレスフルな社会で自立するにあたって、障害に配慮して働くことができるというのはかなり大きいです。

次に障害者手帳を持っている人対象の支援を受けることができます。就職支援や生活支援があります。

そして社会費用の免除です。税金が安くなったり、公共交通機関の割引があります。

周りからの目を気にして障害者手帳の申請を渋る必要はありません。何も恥ずかしいことではないし、なによりそれで本人が生きやすくなるならいいことだと思いませんか?

それに障害者手帳があるからといって、社会的に障害者として生きる道を選択する必要だってありません。手帳を持っておいて使わないという選択肢もあるのです。

まとめ

私たち自閉スペクトラム症にとってお母さんは何よりも大切な存在です。ぶっちゃけ自分より大切です。

そんなお母さんがつらい思いをして苦しんでいる姿は、私たちにとって何よりもつらいもの。それが私たちの障害が原因だと知ったなら、なおさらです。

ですからお母さんには、どうか無理をしないでほしい必要に応じて支援機関に頼ってほしいです。

我が家も通院先だけでなく大学の相談窓口やカウンセリングなど、様々な場所に頼りながら最善策を探って日々を送っています。

自閉スペクトラム症という障害を個性だと笑い合える日が、あなたとお子さん、そして私たち家族に訪れますように。