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ASD女子大生の読書記録

なぜ途上国はいつまでも貧しいのか?|『食べものから学ぶ世界史』【要約】

日本を含む先進国ではフードロス(食品が余ること)が問題になっているのに、一方で世界には飢餓に苦しむ人がます。

現在地球上に存在する食料では120億人を十分にまかなえると言われています。でも現在の世界人口は約80億人なのに、飢餓人口は約8億人です。

食料が足りているのに、むしろ余っているくらいなのに、飢餓に苦しむ人が億単位で存在するなんておかしい話ですよね。

こんな風にいびつな世界の形は、産業革命の時代に始まった資本主義の歪みそのものなのです。

〈目次〉

書籍情報

  • 題名:食べものから学ぶ世界史ー人も自然も壊さない経済とは?
  • 著者:平賀緑
  • 出版:岩波書店
  • 発行:2021年7月20日

資本主義とは?

そもそも「資本主義」って何でしょう?

資本主義とはモノをつくる生産手段を持つ資本家のもとで、生産手段を持たない人たちが自分の労働力を売って賃金を得る仕組みのことです。

持つ資本家と持たざる労働者の間で、貧富の差がどんどん拡大していくのが資本主義の特徴です。

労働者の胃袋

資本主義が広まったのは産業革命の時代のことでした。

まず産業革命によって工業化が進みます。すると商品を生産する手段(機械)を持つ資本家と、そんなものを持つお金がない人びと社会が分断されました

生産手段を持たない人たちが、資本家のもとで自分の体と時間という労働力を売ってお金を得なくてはならない、という状況が発生したのです。

これは資本家にとってとてもおいしい話でした。どうしてでしょう?

ずばり「労働者の胃袋」という大きくて確実に儲けられる、新たな市場が生まれたからです。

それまで人びとは、自分が生きるのに必要な食べものは自分で耕作してまかなっていました。

でも産業革命の時代になって工場で働く労働者となった彼らには、自分が生きていくために必要な食べものを自分で生産する時間も労力も残っていませんでした

つまり労働者は誰かから、生きるために食べものを買わなくてはならなくなったわけです。

こうして先進国では生きるために必要な食べものが、生産するものではなく労働者に売られる「商品」になったのです。

食料は植民地から

当時の先進国の資本家がより多くの利益を得るにはどうすればいいのか。答えはなるべく安く労働者の食べものを生産することでした。

買い手は生産手段が持てなくて(お金がなくて)工場で働かざるを得ない労働者なのですから、どんなに食べものを生産しても高ければ買ってくれません

つまり商品は適度に安くなければならないわけなのですが、資本家が儲けるにはそれよりもっと安く大量生産する必要が出てきます。

そんなとき彼らが目をつけたのが植民地。本国に隷属する植民地は、食料を低コストで生産するのにもってこいでした。

先進国の資本家は植民地で奴隷をこき使ってせっせと食料を作らせ、それを「食品」として自国の労働者に売りました

植民地の人びとは自分たちが生きていくための食べものを生産する農業から、先進国の労働者の胃袋を安価に満たす「食品」を生産するための農業に強制的にチェンジさせられたのです。

資本主義の爪痕

植民地の国々はその後独立を果たしても、旧宗主国(支配していた国)への経済的隷属から抜け出せませんでした。

長い間先進国の労働者の胃袋を満たすためだけの農業をしてきて、もはやそれ以外のものを生産する能力が失われてしまったからです。

要するにモノカルチャー経済化(ひとつのものだけを生産するため、その商品の売れ行きに経済が大きく左右される)してしまったということです。

元植民地の国々が現在でも途上国として発展が遅れているのには、産業革命の時代から先進国にいいように利用されてきたという背景があるのです。

一方で植民地からさんざん吸い上げてきた先進国は、見事に発展を遂げました

しかしとある問題が発生しました。過剰な大量生産によって余った商品問題です。

利用される途上国

商品をどんなに安く大量に作っても、売れなければ利益はありません。でも先進国内だけで生産した商品を消費するのには限界がありますよね。

最悪なことに、ここで先進国が新たな市場として目をつけたのが途上国の国々でした。本国で大量に生産して余った商品を、安く途上国に売りつけたのです。

ちなみに日本は戦後、アメリカからたくさん支援を受けましたよね。あれもアメリカのそういう戦略の一種です。

日本はその後朝鮮戦争による物品の需要から経済発展を遂げ、現在に至ります。

でも日本は運がよかっただけ。世界の多くの途上国では日本のようにはいきませんでした

先進国から安い商品が大量に入ってくると、現地の商品が安い輸入品に太刀打ちできず、売れなくなってしまいます

ただでさえ貧しい人びとが、生産しても生産しても商品が売れなくて、もっと貧困にあえぐことになるのです。

その一方で先進国は途上国という新たな市場をバネにもっと発展していく。先進国はどんどん豊かになっていくのです。

これからの世界

ここまで見てきてわかるように、資本主義とはどこまでも利潤を求めるシステムです。

富める人が富み、貧しい人は置いていかれる。貧しい人が富める人に搾取される。そんなシステムです。

ここで思いませんか? 今は途上国に大量生産した商品を安く売りつけている先進国だけれど、いつか途上国にだって消費の限界が来る。そうしたらどうするのかと。

新しく採択されたSDGs(国連による持続可能な開発目標)では「誰も置き去りにしない」ことが目標とされています。

しかし資本主義が浸透している今のままでは、この目標は到底達成できないでしょう。

世界は資本主義を中心にまわっている今の世の中を見直していかなければなりません

まとめ

資本主義はお金がある資本家がもっとお金を得るのに対して、その下で働く労働者、さらにその労働者を支える人たちはいつまでも富めない、歪んだシステムです。

新たな市場に対して売り込みをすることで利益が出る仕組みなので、資本主義はいつまでも新たな市場を模索します。

近年、そんな資本主義にも限界が見え始めてきました

今こそ資本主義を中心にまわる世の中を見直し、資本主義によって歪んだ社会の形を変えていく努力をしなければならないのです。

 
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