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ASD女子大生の読書記録

砂糖を通じて見る世界史の闇|川北稔『砂糖の世界史』【考察】

甘いスイーツは好きですか?

世界のどこを見渡しても、甘いスイーツが嫌いな人なんていませんよね。

そんなスイーツにふんだんに使用されているモノ、それが砂糖

この本では、砂糖というモノを通じて世界史を俯瞰しています。

人類誰もが愛してやまないモノだからこそ、砂糖を通じて世界史の闇が見えてくるんです。

〈目次〉

書籍情報

  • 題名:砂糖の世界史
  • 筆者:川北稔
  • 出版:岩波ジュニア新書
  • 発行:1996年

ジュニア新書ということもあり子ども向けなので、すいすいと読み進められます。

こんな人にオススメ

  • 砂糖の歴史について知りたい
  • 奴隷貿易について知りたい
  • 奴隷制度がもたらした影響について知りたい
  • 産業革命時代のイギリスについて知りたい

考察

ここからは本書の内容について考察していきます。

みんな大好き砂糖

人類はみな、本能的に甘いものを求めます。甘いものが好きなのです。

ですから砂糖きびから砂糖を生産する技術が広まると、瞬く間に世界中に広まっていきました。

世界中の人びとが砂糖を求めました。

砂糖きびの厳しい栽培条件

近世ヨーロッパでは砂糖の普及と共に、その需要は右肩上がりに高まっていました。

それに対し、砂糖の原料である砂糖きびの栽培条件は厳しいものでした。

熱帯や亜熱帯でしか栽培できない上、砂糖きびの栽培によって土壌の栄養が奪われるため、新鮮な土壌を求めて栽培地の移動を続けなければならなかったのです。

そこでヨーロッパ諸国は、新天地のカリブ海の国々に目を付けます。

ヨーロッパ諸国はこぞって未開発のカリブ海の国々に広大なプランテーションを形成し、現地の先住民族を労働力としました。

しかし、ここで問題が発生します。

現地の先住民族が、過酷な労働やヨーロッパ人が持ち込んだ病気によって激減し、プランテーション働き手が圧倒的に足りなくなってしまったのです。

そこでヨーロッパ諸国が新たな労働力として目を付けたのが、他でもない、アフリカの黒人奴隷でした。

アフリカの国々自体が、奴隷貿易に依存した

そもそもアフリカには、制度としての奴隷制が存在していました。

ここに大量の労働力としての奴隷を必要とするヨーロッパが、うまく参入してきたのです。

アフリカの国々はヨーロッパ諸国に奴隷を売ることによって、莫大な利益を上げることができるようになりました。

アフリカにもともとあった奴隷制下では奴隷にある程度の自由や権利が保障されていましたが、利益に目がくらんだアフリカ諸国は非人道的な方法で奴隷を売りさばくようになっていきました。

そうしているうちにアフリカ社会のバランスが次第に崩れていき、アフリカ経済そのものが奴隷貿易に依存するようになっていきました。

奴隷貿易が残した爪痕

ヨーロッパ諸国とアフリカ諸国の利益が一致した結果、奴隷貿易は実に3世紀半以上もの間続くことになります。

19世紀になって世界商業の中核を担っていたイギリスが奴隷制を廃止すると、それに呼応して他の国々も次々と奴隷制を廃止していきます。

しかし長く続いた奴隷貿易は、現在にまで続く爪痕を残していきました。

アフリカ地域の発展の遅滞

長い間奴隷貿易から得る利益を当てにしてまわっていたアフリカ経済にとって、奴隷制の廃止は大きなダメージとなりました。

アフリカ経済は崩壊し、アフリカ諸国の国力が一気に弱体化しました。

このアフリカの弱体化は、後の帝国主義時代の列強によるアフリカの植民地化を招きました。

列強はアフリカを植民地化する際に、アフリカの内情を鑑みずに国境を引きました。

このことが現在の紛争や民族抗争の引き金になっています。

そしてその紛争や民族抗争が、アフリカ地域の発展を大きく妨げているのです。

旧植民地のモノカルチャー

一方黒人奴隷の入植先となったカリブ海の国々では、ひたすら砂糖きびの栽培と砂糖の生産に従事させられたことで、モノカルチャーが進みました。

あまりに長い間続いた奴隷貿易。それが終わりを遂げても、これらの国々が長く続いたモノカルチャー経済の仕組みから抜け出すことは容易ではありませんでした。

結果、現在でも旧宗主国への経済的隷属から抜けられていません。

白人による黒人への人種差別

ヨーロッパ諸国が信仰するキリスト教では、奴隷制というシステム自体が禁止されていました。

そこでヨーロッパ諸国は奴隷制を正当化するため、そもそも黒人は白人に比べて人種的に劣っているので支配されて当然である、という論を展開しました。

長く続いた奴隷制が廃止された後も、黒人を差別対象として見る風潮はなくなりませんでした。

奴隷貿易は、現在の国際社会の大きな問題である黒人差別問題に深く関わっているのです。

まとめ

私たちにとって最も身近な食品、砂糖

そんな砂糖の裏には、人類の負の歴史がありました。

今回当ブログでは詳しく扱いませんでしたが、筆者の川北稔さんの専門がイギリス近世・近代史ということもあり、本書では植民地時代のイギリスの様子についてもかなり詳細に記されています。

興味のある方は、ぜひ一度『砂糖の世界史』を読んで見ることをオススメします。

参考文献

斎藤孝「植民地」『日本大百科全書小学館

植民地(しょくみんち)とは? 意味や使い方 - コトバンク

アクセス日:2023年7月20日

ジェンダー視点で歴史を読み替える『【年表】アフリカ史(2)ー奴隷貿易(構築中)』

【年表】アフリカ史(2)ー奴隷貿易(構築中) - 比較ジェンダー史研究会

アクセス日:2023年7月20日