いなほの本棚

ASD女子大生の読書記録

患者の「思い残し」が視えるナースの闘い

お久しぶりです。いなほです。

実は体調を崩して入院していまして、ブログが書けていませんでした。

入院中って有り余るほど時間がありますよねぇ。だからたくさん本を読んでいました。

今日はその中から1冊、心がほんわりする本を紹介します!

〈目次〉

長期療養型病棟の物語

今回の本は、この本。

 
そう、題名からわかると思うのですが、今回の物語の舞台は病院です。
 
入院していたので、病院の話が読みたくなったんですよねぇ。読んでいて、「そうそう、こんなことあるよね」って言いたくなる作品でした。
 
しかしこの作品の特異なところ。それはただの病院ではなく、完治の見込めない患者が集まる病棟、長期療養型病棟のお話ということです。
 
本来病院は外来で通院したり、入院したりして、病気を治すところですよね。しかしこの病棟は違います。もう完治の見込みがない患者が入院してきて、ゆったり過ごす場所なんです。
 
だから本作で出てくる患者さんたちは、すべてもう治しようもないほど状態が悪い患者さんたち。明日にでもこの病棟で命を落とすかもしれない患者さんたちなのです。
 
だからこの物語には病院ものにありがちなせわしなさというのがなくて、ゆったり、ゆっくりと話が進んでいきます。そしてちょっぴりせつないのが、この物語のアクセントになっています。

患者の「思い残し」が視えるナース

主人公のナース・卯月はとある特殊能力を持っています。それは「死を意識した患者の『思い残し』が視える」という特殊能力です。

具体的には例えば患者に好きな人がいたとします。その人に想いを伝えておけばよかったと後悔しているとします。するとその患者が想っている相手が半透明な姿となって、卯月に視えるのです。

しかしこの「思い残し」、ただそこにいるだけで何もしません。動いたりしゃべったりしないのです。だから卯月は末期の患者の思い残しを解消するため、密かに奔走することになります。

寂しげな顔の女の子

この物語で卯月が最初に思い残しを解消する患者は、重度低血糖で意識のない大岡さんです。

庭木の剪定師をやっていた大岡さんですが、仕事中に低血糖を起こして意識を失って脚立から転落してしまいます。

そんな大岡さんの思い残しは、寂しげな顔をした女の子でした。しかし大岡さんは独身男性。子どもも孫もいないはず。卯月の思い残し解消の闘いが始まります。実はこの女の子はとある事件に巻き込まれていたんです。

詳細はぜひ読んでほしいのですが、この物語のいいところは悪人がいないところですよねぇ。どれもふんわりと包み込むような優しさを含んだエピソードになってます。

同性のパートナー

この物語のフィナーレを飾るのが、がんで入院している風岡さんと、その同性パートナー・速水さんの物語です。

20年以上連れ添ってきたふたりは、結婚式をしたいねと話していたのですが、あれよあれよという間に時間が進んでしまい、風岡さんが入院することになってしまいました。そこでパートナーの速水さんが、風岡さんへのサプライズとして、病院での結婚式を提案するのです。

このふたりのエピソードは、卯月にとっても印象深いものとなります。なぜなら卯月自身にも、同性の愛する人がいたからです。

しかし悲しいことに、その人はもういません。それでも、卯月はずっとその人のことを想い続けているのです。これからもずっと想い続けるでしょう。

そこがこの物語のはかなくも美しいところだと思います。

リアルに描かれる病院生活

この本はnote主催の創作大賞2023「別冊文藝春秋賞」を受賞した作品です。

私も応募しました・・・という話はともかく、作者の秋谷りんこさんは実際に病院で勤務していたことのあるナース。だからこのお話、入院してる私から言わせてもらっても、とってもリアルなんです。

看護師や先生の雰囲気、血圧や血糖値などバイタルの話、点滴や経管栄養、どれもリアルで、入院経験がある方なら「そうそう!」と言いたくなるような作品です。

もちろん、入院経験がない人でも存分に楽しめる作品です。なぜならこの本の魅力はそれぞれのエピソードのやわらかなあたたかさにあるから。

入院したことがある人もない人も、ぜひ手に取ってみてください!

  • 題名:ナースの卯月に視えるもの
  • 著者:秋谷りんこ
  • 出版:文藝春秋
  • 発行:2024年5月10日

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